よく通る明るい声に、撮影スタジオの空気がパッと華やぐ。高畑淳子から発散されるオーラはキャリアの長い大女優そのもの。そんな彼女が、映画『お終活 再春！人生ラプソディ』で演じたのは、大原家の妻、千賀子。家庭ひとすじの主婦という役に、どう理解を深めたのか？

「それは理解できますよ。私の父はサラリーマンで、お芝居とは無縁の家庭に育ちましたが、私は演劇の世界に飛び込んじゃった。けど、千賀子さんは飛び込まなかった。シャンソンが好きで、舞台に憧れがあったけど、家庭に入って、毎日の料理を一生懸命作って、掃除をしてっていう、憧れとは反対のところに行った人。でも、もし私がお芝居の世界に飛び込まなかったら、きっとこうなっていただろうなっていうような女性なんです。大いに共感できます」

今作のタイトルにある「再春」は、熟年時代の、再びの青春のこと。千賀子はそれを積極的に楽しみ、一度は諦めた「舞台でシャンソンを歌う」夢に挑戦。劇中では、高畑自身が、思いのこもった歌声で監督訳詞の『愛の讃歌』を披露する。

「歌に込めたのは、自分自身の歴史とか、夫と2人で歩んできた道とか。2人で紡いできた歴史にこそ、私の誇りはあるんだっていうこと」

しかし、夫の真一はといえば、定年後、家でゴロゴロ。認知症の疑いまで持たれてしまう。「お終活」世代の男女のギャップは、どこの家庭にもありそうで、笑いを誘う。

「熟年世代の男性と女性をくらべると、やはり女性の方が貪欲ですよね（笑）。自分自身の欲のことでいえば、若い頃には、大きなお仕事ができなかったので、今『仕事したい貯金』みたいなものが、貯まっていると思うんです。たまに仕事が嫌だなと思う日も、ないわけではないんですが、働けるっていうことは、やっぱりかけがえのないことだと思うんですね」

元気の源は、1日おきに行くプール。

「どうも運動はちゃんとしないと、何だか自分のこと嫌いになっちゃう。自分を好きでいることが、毎日の気分を上げてゆくことにつながっているかもしれないです」

Profile　香川県出身。1976年に劇団青年座に入団。舞台、映画、ドラマで活躍を続ける一方、バラエティーでも人気を得る。2014年紫綬褒章を受章。紀伊國屋演劇賞個人賞、菊田一夫演劇賞演劇大賞など受賞歴多数。

個性派俳優たちが彩る、人生の再春ドラマ

ちょっと頑固で、マイペースな大原家のお父さん、大原 真一（橋爪 功）

Q　役作りで参考にされたものは？

A　自分自身を参考にしました。

Q　男女の「再春」のかたちの違いを どう感じますか？

A　うーん、歩み寄り不可能です。

Q　観客にどんなメッセージを？

A　むしろどんな感想を持っていただいたのかお聞きしたいです。

Profile 1941年大阪府出身。文学座、現代演劇協会 劇団雲を経て1975年、演劇集団円の設立に参加。舞台、映画で数々の賞に輝く。

大原家の長女、亜矢（剛力彩芽） 　結婚を控えて、父の認知症疑惑が心配。

千賀子のシャンソンの恩師の娘、丸山英恵　（凰稀かなめ） 　母に代わって、千賀子を指導する。

フランス帰りの画家、五島英樹（長塚京三） 　過去の人生は、ちょっと謎めいている。

スナックのママ、カオリ（藤原紀香） 　真一の行きつけのスナックのママ。

「終わりよければすべてよし。最後の日まで人生を楽しんで」

香月  秀之 監督

私の考える「終活」とは、「終わる為の活動」ではなくて、「終わるまでどう活動するか」です。これまでの知識と経験値を武器に、最後の日まで人生を楽しんで欲しいと思います。

「終わりよければすべて良し」とシェイクスピアも言っています。若い世代には、高齢者の人たちが楽しい人生を送れるように協力して応援して頂きたい。いずれ自分たちも歳を取ってゆくわけですからね。

Profile 大阪府堺市出身。東映京都撮影所の助監督になり映画界へ。その後、東映東京撮影所に移り、佐藤純彌監督に師事。1996年に劇場映画監督デビュー。

『お終活 再春!人生ラプソディ』

大原千賀子（高畑淳子）、真一（橋爪功）の一人娘・亜矢（剛力彩芽）が、いよいよ結婚目前。喜びの一方、真一に認知症疑惑が…。千賀子はかつてのシャンソンの恩師の娘・丸山英恵（凰稀かなめ）と出会い、再びレッスンに通いだす。舞台を目指し張り切る千賀子に真一は呆れ顔、しかもコンサート開催が危ぶまれる事態に。

主演：高畑淳子／剛力彩芽  松下由樹  水野勝  西村まさ彦／石橋蓮司  藤原紀香（友情出演）大村崑 凰稀かなめ／長塚京三／橋爪功

脚本・監督:香月秀之

配給：イオンエンターテイメント

企画・製作プロダクション：フレッシュハーツ

©2024年「お終活 再春!」製作委員会

2024年 5月31日（金） 全国公開