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ENTERTAINMENT

中野公揮&ヴァンサン・セガール デュオコンサート「Lift」

音楽、アート、サロンから生まれた刺激的なクリエイションの場


ピアニスト中野公揮とチェリスト、ヴァンサン・セガールの音楽、彫刻家・名和晃平の舞台と、VOLVERのアーティスティックなフードとシャンパーニュのあるサロン。グランマーブルが創造活動へのサポート、そして上質の遊びの文化への提案として企画・主催し、全席を招待したこのイベント。2018年5月12.13日(東京・スパイラルホール)、18日(ロームシアター京都)で上演された3夜の様子をレポート。

床に敷き詰められた炭化ケイ素の粒。オブジェの足元には波紋も描かれている。

パリのレーベル「No Format!」からアルバムをリリース、ヨーロッパ各地へのツアーでも大きな反響を得ているピアニスト・作曲家の中野公揮と、チェリストのヴァンサン・セガール。日本で初めての2人の本格的なライブを、彫刻家・名和晃平とそのクリエイティブプラットフォームSANDWICHのアートワークによる舞台で上演する『Lift KOKI NAKANO &VINCENT SEGAL Duo Concert』が、東京・京都で約1100名の文化人、クリエイターを招待して開催された。

 

深い青に彩られた世界。

薄闇の中、光の粒に覆われた柱状のオブジェと床が照明に反射する中で奏でられた1曲目はPetite Pièce Pour Un Inconnu(見知らぬ人のための小品)で、メロディックな幕開け。Introduction I. II (序章 1、2)では、ピアノとチェロの協奏が強い印象。Tiergarten( ティアガルテン/公園)では、照明の色彩のコントラストが作品のメッセージを強調した。音楽と共鳴して強度と色彩を変える照明は、観客を映像的な体験に誘った。

VOLVER による造形的なオードブルは、黒いクラッカーに黒いきのこのペーストなどをトッピング。炭入りの琥珀(寒天菓子)も、手に取って食べるのが躊躇されるほど造形的。

ライブの後は、VOLVERによるフードと、シャンパーニュでの交流のひと時。テーブルの上の造形的なフードは、宍倉慈が名和晃平の作品へのオマージュを込めたコンセプチュアルな「食べられる作品」。ルイナールのシャンパンの香りとピエール・エルメのチョコレート、やまユの日本酒の香りも参加者を酔わせた。

 

 

  • ドリンクは、世界最古のシャンパーニュメゾン、ルイナール。

  • ピエール・エルメ・パリのマカロンとショコラ。

  • 新政酒造「やまユ」の未販売の限定日本酒が振る舞われた。

最終夜はロームシアター京都での公演。2018年は京都とパリとが姉妹都市となって60年の記念の年。そのパリの1920年代にはエリック・サティやドビュッシーら音楽家がアーティストと実験的なコラボレーションを行い、サロンが華やいだ。この『LiftKOKI NAKANO&VINCENT SEGAL Duo Concert』は、そんなベルエポックの文化を受け継ぐものだ。


 

CREATERS

コラボレーションを通じて深めた“新しさ”の感覚  中野公揮

コンサートで披露した楽曲は、すべてオリジナル。旋律にはフォーレなど近代音楽を思わせる懐かしさもあり、どの曲にも体感的な心地よさが通底する。「名和さんに舞台美術をお願いすることになり、いろんなお話を伺い、僕が作曲する上で重なる部分もあることを感じました。その一つが“新しさ”の感覚です。刺激や実験性のみを求める“新しさ”ではなく、それらを経験した現代を生きるフィジカルが感じる気持ちよさ、過去から受け継いだ多くの遺産を分け隔てなく見つめ、新しい角度から謳歌する感覚をとても大切にしています。名和さんの身体性や重力といったものに基づいた創作、素材そのものからの表現をいつも大切にされる態度に共通する部分を感じています」。このコラボは、クラシック音楽を尊重しながら新しい表現に葛藤してきた中野を、強くインスパイアした。「今、コンテンポラリーダンスや演劇などを中心に現代の舞台表現にとても興味があり、よく観に行っています。 今はようやく過去の創造の延長線上に自分がいるということを感じられる。今を存分に味わい、自分の“今”を作っている長い時間の流れや様々な文脈を心から愛し、改めて自分らしくアクセスすることで、“新しさ”を作っていけたらと思っています」。

 

中野公揮 Profile:1988年福岡生まれ。桐朋女子高等学校音楽家(共学)ピアノ専攻を卒業。東京芸術大学作曲科入学後、パリに拠点を移す。フランス/バルビゾン市主催“Festival international de Barbizon”ののオープニング曲作曲。ブタペスト/ステファニアパロタ城、パリ/ルーブル美術館、フランス文化・通信省、パリ/シャトレ座、パリ/Teatre de Bouffes du Nord、ロンドン/Cadogan Hallなどで演奏。2016年9月にファーストアルバム「LIFT」をパリのレーベルNo Format!から発表。 http://kokinakano.com/

パリ20年代の芸術家たちの交流を思わせる体験  VINCENT SEGAL(ヴァンサン・セガール)

長らく中野公揮とともにステージに立つセガール。「初めてこの計画を聞いた時、素晴らしいと思いました。私と公揮、名和さんとが、お互いのクリエイションをシェアして、そしてさらにそれを高めてゆくことができて誇らしく思っています。こうしたファインアートとのコラボは初めてですが、エリック・サティやストラヴィンスキーらがピカソとパリで1920年代に行ったアートとステージの有機的なつながり、エスプリが再現されていて、自分はそれをまるで観光客のようにすばらしいなと眺めていました」。

 

VINCENT SEGAL(ヴァンサン・セガール) Profile:1967年フランス・シャンパーニュ生まれ。リヨン国立高等音楽院を首席で卒業。リヨン国立オペラなどクラシック界で活躍後、現代音楽、ワールドミュージックやジャズなど幅広いジャンルのミュージシャンと共演。

舞台を光の粒子で覆い、音楽を映像体験として表すデザイン  名和晃平

6本の柱状のオブジェが印象的に配置され、その輪郭はすべて異なった波形が描かれている。「音のメロディを彫刻にすることを試みました。チェロとピアノの譜面の一部の音符をつないだ線を回転させ、オブジェのフォルムに置き換えました」。舞台の床面とオブジェとを同じ炭化ケイ素の粒で覆い、そこに反射する光の変化が、観客を映像的な体験に誘った。「照明が当たることで、光の粒で覆われた世界が生まれます。音楽には時間と空間の要素があり、彫刻もまた体験だと言えます。舞台を、時間軸のある詩的な映像体験とする。それが今回のテーマでした。最近は、プロジェクターなどを使った映像表現が多いのですが、映像的な体験は可能だと思っています」

 

名和晃平 Profile:1975年大阪生まれ。彫刻家、京都造形芸術大学教授。「PixCell」という概念を軸に多彩な表現を展開する。2009年より創作のためのプラットフォーム「SANDWICH」を立ち上げ、アート、建築、デザイン、企業やファッションブランドとのコラボレーションまで国内外に活動の幅を広げている。

時間を結晶化させるアートに捧げたオマージュ  VOLVER(ボルベール) 宍倉慈

テーブルの上に、小さな黒いオブジェのようなフードを散りばめて神秘的な景色を描いたVOLVER(ボルベール)の宍倉慈。このフードスタイリングには、今回の音楽と舞台美術の彫刻へのオマージュが込められている。「時間的なものである音楽と、時間が止まったような彫刻の融合をテーマにしました。今回の舞台美術に合わせて、色は黒でまとめました。網目状の黒いクラッカーや炭を流し込んだ寒天菓子の琥珀は、食べ物で表現した“一瞬の切り取り”」。

 

VOLVER(ボルベール) 宍倉慈 Profile:主宰は京都出身の宍倉慈。美術を学び、視覚でも楽しめるケータリングフードを展開する。展示会やファッションブランドのレセプションを中心に活動。

comment

ライブシーンとアート、「遊びの文化」の創出を  山本正典 グランマーブル代表取締役

「ヨーロッパにはアコースティック音楽を受け入れる歴史、環境が整っています。中野公揮とヴァンサンのような音楽を、日本でどう浸透させて行けばいいのか? そのためのライブシーンを創出したいと考え、シーンを作れる彫刻を『この人しかいない』という気持ちで名和さんにお願いしました。終演後の社交までをプログラムに入れたのは、日本に、ヨーロッパのサロンのように、シャンパン片手に音楽とアートを語るような文化的な遊びへの憧れを呼び起こしたいという思いからです。名和さんの作品には品性とインテリジェンスだけでなく、作品の上に見えているのは氷山の一角で、その下に膨大なリサーチや試作があることを知りました。中野公揮もクラシックの素養の上で思索して制作する。二人には共通したものを感じるのです。マーブルデニッシュはギフトに使っていただくことが多い。人の気持ちを預かる仕事です。それに応えるため、いかに志を高めるか?その努力も氷山の見えない部分です。僕としては二人のクリエイターを通して、勉強させてもらっている気持ちです」。

guests

俳優の山田孝之さん。「この日、僕は初めての感覚を味わった。今でも信じ難いその感覚は、今後の人生においても中野公揮のピアノの前でしか起こり得ないのではないかと思う。それは終盤1 0 曲目、D’un Pas Habileのときだった。神経が研ぎ澄まされ、全ての音がはっきりと聞こえてくる。咳払いや鼻をすする音、体の態勢を変え椅子が軋む音、呼吸の音、服と服が擦れる音までも。これらの音は本来邪魔以外のなにものでもないはずだ。しかしとても心地いい。それは彼のピアノがそれら全てを飲み込み、共鳴し、音楽へと変えてしまったからだ。邪魔になるはずの環境音まで美しく聞こえさせてしまったのだ。僕の周りには常に不快な環境音がある。しかしここに中野公揮のピアノが入れば、全てが美しく変わる」

 

山田孝之 Profile:1983年鹿児島県生まれ。1999年に俳優デビュー。数々のドラマや映画に出演。映画『50回目のファーストキス』が公開中。テレビドラマ『del e(ディーリー)』が7月スタート。ミュージカル『シティ・オブ・エンジェルズ』が9月に公演。

モデルの前田典子さん。「まるでフランス映画をみているようなひと時でした」

祇園甲部の芸妓、紗月さん。「繊細な音楽で感動しました。素晴らしいピアノを弾かれた中野さんのお指を拝見したい(笑)」

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