小林聡美の存在感と、名匠・平山秀幸監督で描く、大人の幸せ。映画『ツユクサ』
2022.3.15
小さな街で暮らすお一人様の女が、過去を乗り越え、前向きに一歩を踏み出す。おとなの日常と幸せを、ジワジワくる空気感で物語る、映画『ツユクサ』。主演の小林聡美、監督の平山秀幸に、作品への想いを聞いた。
平山: 実はこの作品は10年越しの企画なんです。40代、50代の普通の女性達を描いた映画って、少ないですよね。冒頭で、ヒロインの芙美は隕石にあたりますけども、それ以降は、そのへんに転がっているような話。でも、女性たちはみんな、芙美さんも、これまでの人生の苦労を経てきている人で‥‥。
小林:私って、家庭にいるってイメージがあまりないんでしょうか。1人で暮らしている役が多い(笑)。
平山:この映画は、「それでもいいよ」という空気を、小林さんたち俳優さんが運んできてくれる、みたいなところがある。
小林:そういう空気感は、やっぱり監督やスタッフのかたたちとのコミュニケーションや信頼関係から生まれてくるものだと思うんです。芙美の部屋のロケセットに入った時に、質素なアパートなんだけれども、心地よく綺麗に整えられていて、その住処を見て、『こういう人なんだな』って、役にスッと入っていけるところが、すごくありました。
平山:スタッフみんなで、俳優さんにその役になってもらう環境を作ってしまうのが、映画だと思うんですよね。
―平岩紙、江口のりことの“三人娘”ぶり、そして子役の斎藤汰鷹との歳の離れた友情にも、いい空気がありました。
平山:いきなりオンナ3人が出てきてパンツの話(笑)なんかして、ほんとにおかしいシーン。
小林:あのシーンは楽しかったですよね。平岩さんや江口さんとお芝居ができるのがすごく嬉しかったです。
平山:もうね、3人の芝居をずっとずっと見ていたいと思った。僕、「カット」かけたくないと思いましたもん(笑)。
小林:親友の、航平役の斎藤汰鷹くんともいろんな話をしました。私のことを『僕のおばあちゃんに似てる』、なんて言うんです。年齢じゃないですよ、血液型。『おばあちゃんも(私と同じ)AB型』、とか言って(笑)。
―楽しいシーンがある一方で、芙美と篠田(松重豊)の思いが通じる場面は心に沁みます。
平山:僕、正直に言うと、そういうの撮ったことないんで、ハラハラしてじっと見ていられなかったんです(笑)。
小林:私も恋愛的なもの、意外とやってないんです。俳優人生でほぼ初体験。‥‥いやもう、なんだかよく分からなかったです(笑)。
平山:僕も。撮った後に、女性スタッフに見てもらって、「これでいいね?大丈夫ね?」て。
―この作品を通して、観客に語りたいことは?
小林:平凡な日常に、ある日突然起こる奇跡のような出来事を、大事に掬い上げて、大いに味わってみるのもいいかもしれませんね、ということでしょうか。
平山:たとえば本でいうと、“読後感がいい”っていう言い方があるように、この映画を見終わった後に、ちょっといい時間があったとしたら、それでいい気がします。
ヘアメイク:貴島貴也
スタイリスト:藤谷のりこ
シャツ、ブラウス:SARAHWEAR(03-5731-2741)
平山 秀幸 Hideyuki Hirayama
Profile
1950年、福岡県生まれ。映画監督。主な作品に『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(2020/日本アカデミー賞優秀監督賞)、『愛を乞うひと』(1999/日本アカデミー賞最優秀作品賞)など。
小林 聡美 Satomi Kobayashi
Profile
1965年、東京都生まれ。初主演した『転校生』(1982)で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『かもめ食堂』(2005)『めがね』(2007)など等身大の女性を演じて共感を得る。ドラマ、CM、エッセイなども多数出版。
©2022「ツユクサ」製作委員会
映画 『 ツユクサ』海辺の小さな街。49歳・独身の芙美(小林聡美)は、タオル工場の同僚の女友達と穏やかな日々を過ごしている。ある日、芙美は運転中の車に隕石が落ちるという一億分の一の確率のハプニングに遭う。そして、どこか寂しげな男・篠田(松重豊)と出会う。心惹かれる芙美だったが、一歩を踏み出せない理由があった。
●2022年4月29日(金・祝)より全国で公開予定
監督/平山秀幸 脚本/安倍照雄 出演/小林聡美、平岩紙、江口のりこ、松重豊、他
配給/東京テアトル 製作/映画「ツユクサ」製作委員会