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ピアニスト/作曲家・中野公揮の新たな展開は コンテンポラリーダンスとのコラボレーション

パリを拠点に活躍するピアニスト・作曲家の中野公揮。2019年にはニューヨーク・リンカーンセンターで演奏。

2020年には待望の2枚目のアルバムをリリース。進化しつづける中野の世界観を聞いた。

2018年、東京・スパイラルホールとロームシアター京都で開催された『Lift KOKI NAKANO &VINCENT SEGAL Duo Concert』は、日本で初めて本格的に披露された中野公揮の音楽と、彫刻家・名和晃平とクリエイティブプラットフォーム・SANDWICHの舞台美術が、観客に衝撃を与えた。このステージは、中野自身にもターニングポイントとなったという。

「このコラボレーションでは、現在の自分のクリエーションにとって大切なものの多くを学びました。名和さんの作品づくりには、『あるべきところにあるべきものがある』ーーそれは素材自体や構成を深く吟味することで、無理に何かをこねくり回さなくても形になる、ということかと勝手に解釈しているんですけどーーという感覚があるんです。名和さんと振付家/ダンサーのダミアン・ジャレの制作プロセスは、小さな実験をたくさん行って、次、次、とコンセプトに近づけてゆくんです。しかもその間にずっと、遊び心を残して。マインドスケープ、心象のようなものをしっかり持ったら、あとは自由に実験をやっていいんだと気付いた」。

コンテンポラリーダンスに影響を受けた新しい作曲メソッド

日本と西洋の古今をハイブリッドしながら音楽を構築してきた中野に、異ジャンルのクリエイターからの刺激が、新しく自由な視点をもたらした。

「今までは、同じようなメソッドでしかやってなかった。そこでは限界を感じるというか、いろんな出会いや自分の変化を反映するには固すぎた。他のアートフォームからの影響をどう自分の作品の中に直接に取り入れられるのか、そのインターフェースが出来始めてきたと感じています」。

中野が音楽と融合させようとしているのが、自身がいま最も刺激を受けているコンテンポラリーダンス。映像や立体、近年ではファッションともコラボレーションが展開されている、最先端のパフォーミングアートだ。

「もともと作曲時に身体の動きを想像することが多かったので、パリに移ってからは作曲のヒントを探しにコンテンポンラリーダンスの公演に頻繁に通うようになりました。そんななか、同年代の柿崎麻莉子さんとの出会いは、コンテンポラリーダンスをより身近に知る大きなきっかけになりました。柿崎さんは2019年のDiorのショーでも、フィーチャーされたL−E−Vダンスカンパニーの日本人ダンサーです。パリで公演を観た後に東京のスタジオで一度セッションを行ったのですが、そのことが、今回のアルバムを推し進めて行けるきっかけになった。自分が欲していた感覚を、彼女の踊りから多く取り入れることができました」。

出会うことのすべてを音楽にしたい

2020年5月にリリースされる新しいアルバムの楽曲には、ダンスからインスピレーションを得た身体性、ムーブメント、そして、日々心を揺さぶるエモーションが反映された、新鮮な境地があふれている。「タイトルは『プレコレオグラフト』、“振り付けされる前の”という意味の造語なんです。音楽が、振り付けを’待っている’または’欠いた’状態。音楽とダンスという二つのアートフォームがより社会的に近かった時代への強いサウダージを意味しています。やっぱり、音楽が好きで自分自身を表現する一番の手段なので生きる意味がそのまんま自分の作品に反映していくようじゃないと面白くない。自分にとって音楽が、生きる瞬間全て、出会うこと全てを反映できるようなものでありたいと思う。

視覚、身体性、音楽の融合するパフォーミングアーツ

音楽を軸に、表現の枠を広げ、コンテンポラリーダンスへの共感を、視覚表現へと展開する試みにも着手している。アルバム収録曲のビデオクリップを、中野が影響を受けた 4人の振付家に依頼。ネット上で公開する。そして2020年4月には、その試みのひとつの完成形として、東京と京都で映像とダンスのコラボレーションを上演する。最先端のパフォーマンスに乗せて新しい次元へと歩む、中野の音楽世界の進化を、目撃したい。


Profile

1988年福岡市生まれ。3歳よりピアノを始める。桐朋女子高等学校音楽科(共学)ピアノ専攻を卒業。東京芸術大学作曲科入学後パリに拠点を移す。ニューヨーク/リンカーンセンター 、ロンドン/Cadogans Hall 、パリ/ルーブル美術館、フランス文化・通信省、シャトレ座 などで演奏。作品はFrance Musique, RFI, NPO Radio 4, BBCなどヨーロッパ各地で放送されている。2016年9月にファーストアルバム「LIFT」をパリのレーベルNø Førmat!から発表。2018年には東京/京都での公演にて彫刻家・名和晃平とのコラボレーションを行う。

http://kokinakano.com/


アルバム発売に先がけて、中野公揮の音楽と、ヨーロッパの気鋭の振付家/ダンサーがコラボレーションした映像を配信

中野公揮の新しいアルバム「Pre-Choreographed」(Nø Førmat! より5月発売)収録曲にヨーロッパの気鋭のコレオグラファーが振り付けた4本のビデオクリップがアルバムの発売の前に1本ずつストリーミング配信される。

映像に表現された4人のクリエイターの世界を、中野とダミアン・ジャレの言葉で紹介する。

「Faire le Poirier」
(逆立ちをする)

Choreographer/Dancer : Imre van Opstal(イムレ・ヴァン・オプスタル)
Dancer : BenGreen(ベン・グリーン)
Director : Benjamin Seroussi (ベンジャマン・セルッシ)
「イムレとベンは、バットシェバ・ダンスカンパニーのダンサー。イムレ
は振付家としてもすでに独自の個性的な動きを持っていて、 同世代のクリエイターとして、注目しています。 ベンジャマン・セルッシは僕の曲を深く理解してくれて、作曲時のイメージをそのままビジュアル化したような映像を作りあげてくれました」。(中野)

Choreographer/Dancer : Imre van Opstal & Ben Green
撮影:Benjamin Seroussi

「Bloomer」
(開花植物、全盛期にある人)

Choreographer/Dancer: 柿崎麻莉子
Director : Benjamin Seroussi (ベンジャマン・セルッシ)
「パリのオランジュリー美術館で、柿崎さんの所属するL-E-Vダンスカンパニーの『SARA』という作品を見たときの感覚が、今回のアルバムの方向性を決めました。彼女の音に対するアプローチは、当時作曲の新しい方法を模索していた僕に、多くのヒントを与えてくれました。ヨーロッパで彼女のダンスを観るたびに、空間にいる全ての人を惹きつける引力のようなものを感じ、同じ日本人として誇りを感じます」。(中野)

Choreographer/Dancer : 柿崎麻莉子
撮影:Benjamin Seroussi

「Near-Perfect Synchronization」
(ほぼ完璧な一致 )

Choreographer/Dancer : Amala Dianor (アマラ・ディアノール)
Director : Benjamin Seroussi (ベンジャマン・セルッシ)
「アマラを知ったのは、パリ近郊のサン・オーウェンという街の劇場で観た『Quelque Part au Milieu de l’Infini』。 限りなく複雑でありながらどこにも無理がない動きの連続、体温の暖かさを感じるダンスに、心から魅了されています。プロジェクトを通して、「世界のどこでも誰でも、それぞれの本質に深く向き合うことで、アートの次の一歩を提案することができる」という今の時代のムードを信じ、切り取りたいと考えていた僕にとって、彼の作品や存在は象徴的なものでした。根気強くオファーを続け、音楽を聞いてもらうことができ、参加していただけました」。(中野)

Choreographer/Dancer : Amala Dianor

撮影:Benjamin Seroussi

「Train-Train」
(単調な日々の繰り返し)

Choreographer : Damien Jalet(ダミアン・ジャレ)
Dancer : Aimilios Arapoglou (エミリオス ・アラポグル)
Director : Benjamin Seroussi (ベンジャマン・セルッシ)
「ダミアンとは2017年に名和晃平さんを通じて東京で出会い、名和さんとのコラボレーション作品『VESSEL』をブリュッセルのモネ劇場で鑑賞しました。広い視野で横断的に自分のクリエーションと時代や環境との関わりを探求する創作姿勢に、大きな影響を受けています」。(中野)

「ミニマルで激しい旋律の繰り返しが特徴的な“Train-Train”という楽曲は、シャープで的確な身体表現が必要となり難しい挑戦となりました。本楽曲を聴いて真っ先に黒澤明氏の『どですかでん』で若い男が瓦礫の中で空想上の機関車を運転する場面が頭に浮かびました。人生の厳しい時期にこそ想像力や創造力がうまれるように…」。(ダミアン・ジャレ)

Damien Jalet
撮影:Mats Backer

  • Data 中野公揮のNEWアルバム 「Pre-Choreographed」

    (Nø Førmat! より5月発売)

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