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中野公揮が、文楽の人形遣い・吉田簑紫郎とコラボレーション
2023.11.14
パリを拠点に活躍する作曲家・ピアニストの中野公揮と、文楽の人形遣い・吉田簑紫郎による初のコラボレーション作品『Out of Hands』がKYOTOGRAPHIEが新しく立ち上げたボーダレスミュージックフェスティバルKYOTOPHONIEの企画により実現された。
吉田簑紫郎が物語の下敷きとしたのは、小野小町の晩年の老いの哀しみを描く『関寺小町』、エピローグとして、絶世の美女だったかつての小町をイメージさせる『鷺娘』。ふたつの演目の人形を簑紫郎が遣い、中野がオリジナルの楽曲を作曲した。
「『関寺小町』は、短い時間の中でも厚みある作品として見てもらえる演目。生と老いと死というテーマには、現代人に通じるコンテンポラリーな要素もあると思います。自分も日々、一回限りの舞台に向きあう中、生きているうちに何が残せるのか?と考えることが多くなりましたから」
芸歴は30年以上。今までもジャンルの線引きにとらわれない作品づくりに、挑戦してきた。「中野さんの音楽を聴いた時に、いい意味で押し付けがなく、そして“空間”を感じました。西洋音楽と一緒にパフォーマンスをする場合、過剰にドラマチックな音楽は、人形の動きと合わせるのが難しいのですが、これなら自然に人形を動かせるな、と」。舞台と客席が分断されないボックス型のシアターでの上演を選んだのは「客席との線引きのない空間の中で、小町の世界に引きずり込みたい」という狙いから。
舞台の上に現れたのは、初めて出会う中野のピアノの旋律を追いかけたり寄り添ったりしながら息づく人形の姿。それを一筋の照明が照らしだす、奇跡のような空間だった。
【写真上】2023年5月6日、ロームシアター京都で第1回KYOTOPHONIEの特別プログラムとして上演された、中野公揮と吉田簑紫郎が遣う文楽人形による公演『Out of Hands』 ©︎ Yoshikazu Inoue-KYOTOPHONIE 2023 (このページ全て)
身体表現と出会って音楽が進化
2023年5月4日、京都コンサートホール アンサンブルホールムラタで、KYOTOPHONIEのプログラムとして上演された中野公揮ソロライブ。 |
音楽を担当した中野公揮が、フランスと日本の時差を経て吉田簑紫郎と打ち合わせをしたのは、リモートで数回だけ。それにもかかわらず、自身の音楽と文楽人形のパフォーマンスとに完璧な調和を描いた。身体表現との共感性は、アルバム『Pre-Choreographed』を発表した時期からの、ダンサーや振付家との協働で培われてきた。
「過去2作のアルバムを通じて行った素晴らしいダンサーや振付家とのコラボレーションの中で自分とは違った感覚の時間との向き合い方とか、波長のようなものを近くで吸収することができ、それが今の僕の糧になっています」
ジャンルの違いはハンディだとは思わない。「表現形態が違っても、コラボレーターの観点やヴァイブスのようなものが自分の音楽に直接影響を与えていると感じます。色々な出会いを通して漠然と浮かんでくる新たな感覚や質感を自分の音楽にどんなふうに具体的に落とし込んでいくのか、たくさんのチャレンジがあります」
5月4日にはソロライブを披露。身体性を強く感じさせるパフォーマンスで、会場を震わせた。大きな挑戦を成し遂げ「これから一年は近年のコラボレーションの集大成になるような仕事に取り組みたい」と語る。
MINOSHIRO YOSHIDA |
Profile 京都府出身。1988年に13歳で(現)吉田簑助に入門し、1991年から簑紫郎と名乗り、大阪国立文楽劇場で初舞台。立役、女形の両方をこなす人形遣いとして活躍する。2014年から、国際交流基金の支援を受けてアジアツアーを自主開催。2016年度咲くやこの花賞受賞。2022年8月、歌舞伎とのコラボレーション公演にも挑戦している。独学で写真を学び2021年、自ら撮影した文楽人形の写真集『INHERIT』(ERMITE)を発表。 |
KOKI NAKANO |
Profile 東京藝術大学の作曲科に学ぶ。2015年からパリに拠点を移しフランスのレーベルNø Førmat!と契約。2016年スティングなどとの仕事で知られるチェリスト、ヴァンサン・セガールとの作品『Lift』を、2020年に初のピアノ・ソロ・アルバム『Pre-Choreographed』をリリース。2021年にパリ・オペラ座でダミアン・ジャレ振付『Brise-lames』の音楽を手がける。2022年5月に2枚目となるピアノ・ソロ・アルバム『Oceanic Feeling』をリリースした。 |
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